あなたの特命取材班 JOUNALISM ON DEMAND Presented by 西日本新聞

調査依頼はこちら

知りたいことや困っていることについて
あなたの特命取材班(あな特)へ
ご要望や情報をお寄せください!

LINE

LINE友だち登録またはQRコードから友だちに
なってチャットしてください。

LINE友だち登録から友だちに
なってチャットしてください。

QRコード

友だち追加

専用フォーム

Twitter
」ハッシュタグを付けて投稿してください
Facebook
「#あなたの特命取材班」ハッシュタグを付けて投稿してください
専用Fax
西日本新聞あなたの特命取材班092-711-5110
郵便
〒810-8721
西日本新聞社編集局「あなたの特命取材班」係

あな特インサイド

インタビュー

「声なき声が、巨大組織に風穴」 かんぽ不正販売問題を宮崎記者に聞く。

31

 小さな「声」、声なき「声」を、丹念に、根気強く集め、たどっていくと、時には大きな山を動かすチカラにもなる。全国を揺るがせた「かんぽ不正販売」報道は「あな特」への一人の情報提供がきっかけとなり闇を掘り起こした「スクープ」だ。人の声が人を動かし、社会に大きなうねりを起こす、そんなジャーナリズムの原点を体現した「かんぽ不正販売報道」はどのようにして世に送り出されたのか。一連の記事を書き、今も「かんぽ不正販売」問題に向き合う「あな特」取材班の宮崎拓朗記者(39歳)に、取材・報道の背景と、そこに関わる想いを聞いた。

 2018年8月。すべてのはじまりは「あなたの特命取材班」に届いた郵便局員からの一通のメールだった。暑中・残暑見舞い用はがき「かもめーる」の販売ノルマがきつく、自腹で大量に購入している局員もいる、という内容。このメールを目にした宮崎記者は、「それほど大きな話とは思わなかった」という。営業職なら大なり小なりノルマはあるからだ。それでも投稿者に連絡を取り、実際に会い、郵便局員に対する無理なノルマの実態を取材、日本郵便広報にも確認を取り、一本の記事にまとめた。その時は「この一本で終わりだろう・・・」と思いながら。

 2005年に西日本新聞社に入社した宮崎拓朗記者は、本社社会部、東京支社を経て現在は本社編集局報道センターで遊軍担当。日頃から世の中の情勢、地域の動き、人の想いにアンテナを張り、幅広く取材活動を行っている根っからの社会部記者だ。郵便局で年賀はがきなどの販売のノルマがあることは以前から知っており、このメールの内容に対しては「ちょっと話を聞いてみよう程度の考えだった」という。 

 しかし、同年8月31日付朝刊社会面に「かもめーる 悩めるノルマ」という見出しで現場の実態を報じた記事が掲載されると、思わぬ反響が広がった。せきを切ったように、同じような悩みを持つ現役郵便局員からの告発が相次ぐ。「自分のところもキツイ」「保険はもっと厳しい」など、溜まっていたやり場のない不満、怒りに火をつけた形だ。

 
 この問題に「あな特」取材班はどう対応するべきか。 「ノルマがきついことは同情すべき面もある。でもどんな営業でも販売目標は設定されるし、企業の中で改善される問題でもあると思った」と、宮崎記者は当時を振り返る。寄せられた情報への対応を迷いながらも、情報提供者と連絡を取り、話を聞く地道な作業を繰り返す。「これだけ多くの人が声を上げている、それを見過ごすわけにもいかない」という想いに突き動かされていたのも事実だ。 事態が大きく動いたのは2018年暮れのこと。情報提供者のうちの一人から、とんでもない話が打ち明けられた。

 「保険のノルマが最もきつい。不正な販売をしている局員もいる」。一人の郵便局員からの打ち明け話は、にわかには信じられないものだった。

 「保険営業がおかしい、なんとかしたい」と「あな特」に繰り返しメールを送ってきた局員の口から語られたのは、高齢者をだまして保険を売りつける犯罪まがいの販売方法の実態だった。「顧客に不利益が及んでいるならば、放ってはおけない」。しっかりと調べ記事にすべき問題だと宮崎記者は取材を続けることを決めた。しかし、一人の話だけでは真偽はわからない、情報を裏付ける確固たる証拠がなければ記事にはできない。そこから、粘り強い真偽の確認、証拠固め、いわゆる「ウラ取り」のための取材が始まった。

 情報提供者一人一人と会って保険営業についてくわしく尋ねる、あるいは現役の郵便局の関係者との信頼関係を築き、不正の実態が証明できる資料の提供をお願いする。たくさんの人と会うなかで、ようやく糸口がみつかった。不正営業の実態が記された多数の内部資料を、関係者から入手したのは2019年の1月のこと。そこには、保険内容を理解できない認知症の高齢者に法外な保険契約を結ばせる“犯罪まがい”の事例も列挙されていた。 取材を重ねると、民営化後、社員約40万人、約2万4千局の郵便局ネットワークを維持するため、保険などの金融事業に依存する日本郵政グループのいびつな構造も浮かび上がってきた。


 「かもメールのノルマ」を報じた記事から半年後の2019年3月18日、「かんぽ不正販売」問題は西日本新聞の朝刊一面、社会面を飾るスクープ記事として掲載された。そこには郵便局員による68件の違法営業、440件内規違反の実態があぶり出されていた。

 記事は全国を揺るがせた。インターネット、Yahoo!ニュースに掲載されることで西日本新聞を知らない九州以外の人、あるいは普段新聞を読んでいない人にも、かんぽ不正販売報道は届き、さらに全国の幅広い世代からの情報提供を呼び起こした。過剰なノルマに苦しみ、心を病んだ多くの局員、自殺した局員もいるとの情報提供もあった。

 一連の報道に対して日本郵便やかんぽ生命は「改善に向けた取り組みを強化する」という形だけの対応を取り続けた。顧客に不利益となる乗り換え契約の実態が明らかになっても日本郵政の社長は「法令違反があったとは考えていない」と強弁した。

 「このままでは何も変わらないだろう、知ってることは全部記事にして出して行こう」。新聞記者魂が刺激された宮崎記者はさらに精力的に情報提供者との面談、取材を重ねた。通常の取材とは違い、メールやLINEで取材対象者と連絡を取ることが多い「あな特」だが、宮崎記者は「顔」を合わせることにこだわるという。現役の郵便局員ら多くの情報提供者は、直接会うことはおろか、電話で話すことさえも拒否することが多かった。だからこそ情報の真偽を確かめることに通常の取材以上に気を配った。そのためにも「顔」を合わせる。一人の話だけを鵜呑みにするのではなく、複数の人に確かめ、事実を探りあてる。情報提供の方法や取材のツールが以前と変わっても、取材の基本は昔と変わらないというのが、彼の持論だ。

 粘り強く全国から寄せられた情報をたどっていく中で、次に掴んだのが保険料の「二重払い問題」だった。かんぽ不正販売問題を一貫して伝えてきた西日本新聞、一人一人と会い、事実を掘り起こそうとする宮崎記者の姿勢に信頼を感じた関係者から内部資料が届いたのだ。


 2019年7月7日、保険料二重払いに関する記事は掲載され、再び大きな波紋を広げた。他の新聞やテレビもこの問題を追従して報道。かんぽ生命と日本郵便はこの事実を把握し、数年前から件数を集計していたが、公表していなかったという。金融庁と総務省は日本郵政グループ3社への行政処分を発表。2020年1月5日、日本郵政、かんぽ生命、日本郵便の郵政3社長が辞任するとういう異例の事態となった。一人一人の声なき声と、新聞記者の粘り強い調査報道のコラボレーションで、巨大組織に風穴を開けたのだ。

 保険料二重払い問題が報じられたあと、情報提供、取材に協力してくれた現役局員から宮崎記者の元に胸を打たれるメールが届いた。

 「私は西日本新聞の名前すら知りませんでした。今は、気骨のある新聞社がまだあるんだなと、新聞社の大切さを感じています。これからも、報道機関の使命を果たす役割に誇りを持って仕事を続けてください。私も勇気づけられました。何事にも負けず、郵便局の今後のために頑張ります」。

この記事をシェアする

かんぽ不正販売を取材した 宮崎 拓朗(みやざき たくろう)

2005年入社。福岡市出身。長崎総局、社会部の福岡県警担当、東京支社報道部などを経て、2018年から社会部。 あなたの特命取材班の情報を端緒に、年賀状のノルマやかんぽ生命の不正販売の問題などの追及を続ける。 穏やかな物腰とは裏腹に、取材では舌鋒鋭く切り込む一面も見せる。