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あな特インサイド

インタビュー

「なぜ?優先席ない九州の高速バス」を取材した吉田記者に聞く。

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世の中が気付けていない「問題」に、光を当てる 

 「誰か」が困っていることは、「他の誰か」も困っていること―。そんな読者からの調査依頼に記者が向き合い、「あなたの特命取材班」が報じてきた記事が、世の中を動かすこともある。「九州の高速バスに優先席がない事実」に焦点を当てた記事もその一つ。一人の情報提供者の困り事に寄り添い、丹念な取材で答えを探り、「問題提起」として送り出した記事が、社会を変えた。担当した吉田真紀記者(35)に取材のいきさつを聞いた。誰かの困り事は、人に伝わって初めて「問題」として認識される。今まで記者が見落としていた「問題の根っこ」に、情報提供者が気付かせてくれることも「あなたの特命取材班」ならではの特徴だ。

 「九州の高速バスには、なぜ優先席がないのでしょうか」。北九州市に住む身体障害者の60代女性から「あなたの特命取材班」に調査依頼が寄せられた。吉田記者が本人に話を聞くと「関東や関西の高速バスや空港へのアクセスバスには当たり前のように優先席があった」と言う。普段、取材などで高速バスを利用することも多い吉田記者は「なぜ?」と問われても答えが浮かばなかった。「優先席がないことは目に入っていたはずなのに、初めて気付いて、ハッとした」。早速、その答えを知りたいと思い、取材を進めることにした。

 まず、関東、関西の高速バスや空港リムジンバスについて、優先席の有無を調べてみた。取材した主要なバス会社は、女性の言う通り、優先席を設けていた。なかには、10年ほど前から設置している会社もあったという。 一方で、九州運輸局に取材すると、「九州では、高速バスに優先席を設置している事業者はない(取材当時)」ということも分かった。

 「なぜ優先席がある高速バスとない高速バスがあるのか」。 疑問を解くために、さらに取材を進める。国土交通省に取材すると、「路線バスは立つ客もいるので優先席があるが、高速バスは安全性の観点から立った状態では運行はしない」。つまり、全員が座れることを前提としているため、設置するかどうかは、各社の考え方に委ねられていた。結果、対応にばらつきが生じていた。

 「前方の席は、子連れなど一般客の利用頻度も高い」「障害者はバスより介護タクシーなどの利用が多い」。九州の事業者が優先席を設置していない理由はさまざまだった。ただ、情報提供者の女性のように、優先席がないことで困っている人が現実にいる。吉田記者は北九州市に行き、女性に「なぜ優先席が必要なのか」直接話を聞いた。一時、関東に暮らしていた女性は、数年前にクモ膜下出血で倒れ、左半身に麻痺が残っている。左足には、足首を固定するための装具を付けていて、歩くときは杖が欠かせない。杖をつきながらの歩行は、体が大きく左右に揺れる。 細いバスの通路を後方へと進むのは難しい上、周りの乗客に迷惑をかけてしまう―。女性は、自身の不便さに加え、周りの乗客への心苦しさを感じていた。

 「障害のある方でも、一人一人の事情で異なる不便がある」ことに吉田記者が気付かされたのは、女性の「理想の席は最前列の左側です」との言葉だった。左半身麻痺のため、腰掛けると、左に体が倒れて隣の人に寄りかかるような体勢になる女性が「周りの乗客に迷惑を掛けない席だから」だった。吉田記者は、女性に実際に会って話を聞くことで「なぜ、女性にとって優先席が必要なのか実感することができた」と話す。

 優先席を求める声が、多くの障害のある人から上がっていることも取材の過程で知った。手足の筋肉が衰え、全身に広がる進行性の難病「遠位型ミオパチー」の患者会、NPO法人PADM(東京)代表の織田友理子さん(39)もその一人。簡易電動車いすを使用している織田さんは、長崎空港から、同伴の夫・洋一さん(39)に抱えられて乗り込んだバスに優先席がなく「前方の席を譲ってほしい」と運転手に相談したものの「自由席だから難しい」と断られた経験を持つ。吉田記者は織田さんに詳しく取材。情報提供者の女性と同じ思いを聞くことができた。

 障害のある多くの人の想いを代弁する形で生まれた記事は、2019年7月29日「なぜ?優先席ない九州の高速バス 設置義務なく対応にばらつき」という見出しで朝刊に掲載された。

 記事はYahoo!にも配信され、多くのコメントが寄せられた。「早く設置すべき」との声もあれば、「全員座れるんだから必要ない」「設置しなくても譲り合えば済む」という意見もあった。それは、普段は気にとめていないことに、たくさんの人が関心を持ち「問題」として捉えられた証でもある。 情報提供者から気付きをもらう、そして答えや解決策を探し、そこに行き着くまでの過程も含めて記事にする。その反響が広がり、また新たな気付きをもたらす。吉田記者が書いたこの一本の記事は、まさに「あな特」の在り方を象徴しているともいえる。

 記事は、いろんなところで反応を引き起こした。織田さんは、吉田記者が書いた記事を長崎県バス協会に持参し、優先席の設置を訴えた。想いはすぐにつながり、記事掲載直後の2019年8月8日には長崎県内の4事業者が高速バスに優先席を設置することを決めた。九州の他の事業者でも優先席の試験導入が始まっている。

 織田夫妻は「優先席が問題意識を持って捉えられていなかったのは、知られていなかったから。この問題に限らず、気付いてもらえればすぐに対応してもらえる問題も多いのでは」と話す。「困っている人の想いが記事になると気付いてもらえる。記事は、影響力が大きいなと思います」。 「あな特の記者さんが私たちの想いを見つけてくださったこと。その後も記事にし、伴走してくれて非常に感謝しています。これからも、読者の想いを、記事で広く知らせる報道を続けてほしい」と吉田記者にエールを送る。 

 また、情報を提供した身体障害者の60代女性は、「自分の投稿がきっかけで優先席が導入されたことは、とても嬉しい。吉田記者は誠実で丁寧。一つ一つ話を聞いて、しっかり理解した上で、記者なりの分析をしてくれたからこそ、あのような立派な記事になったと思う。あな特は、社会で起きていることを取材し、より良い社会のあり方を提案する記事を書いていってほしい」と話す。

 今までの新聞記事になかったテーマも書けるのが「あな特」。吉田記者は「たくさんの、いろんな立場の人に問題意識を共有してもらい、より良い方向に向かうきっかけになる記事が書けたらと思います」と話す。

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「九州の高速バスに優先席がない事実」を書いた 吉田 真紀(よしだ まき)

2007年入社。長崎市出身。編集センター、都市圏総局(現政経部)、熊本総局を経て、2016年から社会部。 あなたの特命取材班に寄せられた取材依頼を受け、迷惑メールが届くカラクリのほか、免税店での「脱税」疑惑、新生児聴覚検査の問題などを取り上げる。